図9 JASO E017に基づく走行抵抗(係数)の算出フロー
このJASO E017に基づいてシャシダイナモメータ上で求めた転がり抵抗と,別の風洞試験で求めた空気抵抗(係数)を使って,標準大気状態での平坦路に相当する走行抵抗を算出する方法が、今回策定した室内走行抵抗測定法となります。実際の手順では,GTR-15もしくは【道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2019.02.15】
別添42(軽・中量車排出ガスの測定方法)】の記載に沿って、ローラ曲率補正、試験車両質量補正、温度補正を行い、走行抵抗係数を算出します。なお各々の補正は、このJASO
E017で規定された方法によって行うことになります。
下記の(a)から(j)の手順に従って、走行抵抗を算出します。
(a) 惰行試験もしくは定常試験で,台上車両損失抵抗と台上転がり抵抗を求める。
(b)平坦路補正の対象となるタイヤ損失抵抗を求める。タイヤ損失抵抗は、台上転がり抵抗から車両の伝達系損失抵抗を差し引くことで求める。
(c) こうして求めたタイヤ損失抵抗に対してローラの曲率補正を行い、平坦路条件に補正したタイヤ損失抵抗を算出する。
(d) 試験車両質量が別添42で規定されている試験自動車重量(別添42の自動車重量は,この規格の試験車両質量と同義である)と異なる場合は、試験車両質量に補正した値を算出する。
(e) 平坦路補正されたタイヤ損失抵抗に対して、試験室温度及びローラ表面温度の補正処理を行い、温度補正された値を算出する。
(f) 平坦路補正されたタイヤ損失抵抗に試験車両質量補正値と温度補正値を加算することで、平坦路条件に補正された台上転がり抵抗を導く。
(g) 風洞試験で求めた空気抵抗係数から,各基準速度における空気抵抗を算出する。
(h) 上記の(f)で求めた平坦路補正された台上転がり抵抗と,(g)で求めた空気抵抗を 各基準速度ごとに加算し、各基準速度での走行抵抗を算出する。
(i) 上記(h)で求めた各基準速度の走行抵抗に対して,最小二乗回帰法を用いて2次式からなる走行抵抗係数を算出する。
(j) 上記i)で求めた走行抵抗係数を燃費・排ガスシャシダイナモメータの初期係数として設定する。
上記の手順による算出フローを図9に示します。
5.3 気温の補正について
転がり抵抗に対する従来の大気温度の補正係数は,年間を通した実路の試験結果から割り出した統計的なものとして導かれたと考えられます。このことから燃費試験法の規定で示されている補正係数には,試験時の路面温度との関係性が間接的には加味されていると思われます。
一方、今回の実験結果は,ローラ温度違いの影響のみを補正するための係数を求めることが目的となります。ちなみにローラ温度補正係数は,タイヤ個体の温度特性,並びにローラとの熱伝達特性を示す数値を意味するものです。
タイヤ熱のローラへの伝熱と同時に,タイヤから周辺の空気中にも放熱されるため,トレッド表面積と熱伝導率から転がり抵抗への大気温度の影響度を両者の比率をもとに計算してみました。またタイヤ周囲の気流の温度は、エンジン排熱の影響も受けますが,その影響度は車両個体の特性と考えられます。そこで,タイヤ周囲の温度では補正を行わず,車両前方から当たる空気の温度で補正することにしました。つまり,車両の環境条件として管理が可能な冷却ファンの吐出口の空気の温度で補正することになります。
タイヤの表面温度がローラの温度並びに熱伝導率に比例すると考えて,これをもとにローラ上の転がり抵抗を実路相当の値に換算する方法について検討してみました。そこでローラ温度変化に対する転がり抵抗変化の温度係数𝐾_𝑑を算出することにしました。金属製のローラは熱伝導率が大きいので,タイヤ及びローラ間の熱の相互伝達量がアスファルト路面に比べてかなり多いと予想されます。そこで,アスファルト製のローラを想定し,それと金属ローラのローラ温度係数の差の分を転がり抵抗に加味することで実路相当の転がり抵抗にすることにしました。また,補正はタイヤ発熱とローラとの熱の授受の関係による転がり抵抗差であると考えて,速度依存性の無い一定量の補正とすることにしました。
公益財団法人日本自動車輸送技術協会は、自動車の安全確保、環境保全に役立つ各種の試験、調査、研究を行うことで社会に貢献しています。